「掃除婦のための手引書」ルシア・ベルリン著
2019年 09月 19日
後ろからいきなり殴られたような衝撃とはこんなものだろうか。
ルシア・ベルリン作「掃除婦のための手引書」はそんな本である。
10年間埋もれていたという24編の作品が収められた短編集である。
共感、情の押し売りは一切ない。
「この感覚、なんだろう」と思いながら読みふけってしまう本である。
例えば、表題となっている「掃除婦のための手引書」
したたかな生命力を感じる。
「掃除婦が物を盗むのは本当だ。ただし雇い主が神経をとがらせているもは盗らない。余りもののおこぼれをもらう。小さな灰皿に入れてある小銭なんかに、わたしはたちは手をださない。」
奥様方は小銭をあちらこちらに置いて掃除婦を試せばよいと思っているから。
彼女が欲しいのは睡眠薬である。いつか自らの命を絶つために。
奥様たちは片方のイヤリングやらつまらないのを掃除婦にくれる。
いただいておいて、かえりにゴミ箱に捨てれば良いと語る。
奥様がたよりよっぽど人生の機微にたけているのが掃除婦だ。
アル中の家族に生まれ、自らもアル中になりながら四人の男の子を育てる。
父親の仕事で南米やニューメキシコに暮らす。
曲がった背骨のために子供の頃から器具をつけて暮らす。
全てが私小説ではないが、作者の生活が交差する。
そしていろいろな仕事を経験しながら、大学の教授の職を得る。
シニカルに自分も自分のまわりもみつめてきたには違いない。
しかし、ふとした瞬間に思わず読者は立ち止まらなければならない。
ある時は人間の心模様の描写に、ある時は街の描写に
さらにものがたりの最後の言葉に、またいきなり殴られてしまった。
その言葉は書かずにおきたい。
ここのところ、フランスの作家による「三つ編み」、韓国の作家による「フィフテイピープル」そしてアメリカ人作家による「掃除婦のための手引書」と面白い小説に恵まれた。幸せなひとときだ。
特にルシア・ベルリンのこの短編集は内容と文章に衝撃を受けた。
読み終わってすぐにまた最初のページから読みなおした。
いつも深い造詣の解説に魅了されてます。
この本読んでみたいです。
お手伝いさんのために監視カメラ?というような
事をよく耳にしました。
いつも行動範囲の広さとその行動力にどうしたらこんな風に・・・と憧れて拝見しています。
そしてもうひとつ羨ましいのは南米に何度もいらしていること。
今回この本を読んでいて、南米に足を踏み入れたことが無い私としては、現地の空気感を体験していれば、アメリカから父親の仕事で南米で生活した作者の気持ちに少し近づけたかなと思ったのです。
そんな意味でもminkこの本はお薦めです。
この本に出会って、自分の中のほんの小さい何かが変わったような気がしています。