高木裕著 「今のピアノでショパンは弾けない」

知り合いの高木裕氏の著書「今のピアノでショパンは弾けない」を読み終えた
結論からいえばショパンの時代に、今の私たちが知っているピアノはなかったから
作曲家がイメージする音楽と、私たちが演奏をしている音楽は違うものだという話である。
しかし、そのような結論よりどこにも所属をしないコンサート調律師であり、音楽サロンを持ち、ご自身で多くのピアノを所有し、演奏者の希望に近いピアノを提供している高木氏のピアノに対する想いは強く伝わってくる。
コンクールやコンサートなど、今のクラシック会の現状も興味深かった。
わが町には音楽大学があるので、楽器をかかえた若者が多く行きかうが、当然、ピアノをかかえている人はいない。ピアノの演奏者はそこに用意されたピアノで自分の力を出すしかない。だから高木氏は演奏者に良い演奏ができるように心をくだく。
コンサートもCD録音も調律士の力と心いきが演奏を支えていることを知った。
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今、世界のコンサートホールのほとんどのピアノがスタインウェイ社製である。
テレビでコンサートを見る時に無意識に確認している。
小学生の時、ピアノのおけいこに通った先生のお宅のピアノがこのピアノだった。オーストリーに留学なさった先生のお嬢さんが持ち帰ったものだと聞いていた。
高音のはしっこの鍵盤の象牙がはがれていたり、出ない音があったり
日本の湿気の多い気候がスタインウェイピアノのピアノにあわないと先生は嘆いていらした。
家のヤマハのアップライトピアノより格段に弾きにくかった。
鍵盤が深く入っていかない、先生の教え通りきちんとした指の形で芯をつくように弾かなければたいした音がでない、やっかいなピアノなのだなぁという印象が残っている。
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1960年代、ヤマハやカワイがピアノを工場で量産し始め、
それまで職人の勘と腕がたよりだったピアノの産業革命である。各地に音楽教室ができた。
日本にクラシックブームが到来した。私たちが小学生から中学生のあたりである。
ピアノの発表会に出たり、お呼ばれされたりしたものだ。
そんなピアノがアメリカでも安く売られ、スタインウェイピアノ社を圧迫した。
スタインウェイピアノ社はドイツの企業だとばかり思っていたが、アメリカにあったのだ。
ハンブルグスタインウェイピアノ時代よりニューヨークスタインウェイピアノとなって発展したとある。(現在は両国で生産している)
ヨーロッパで生まれたクラシック音楽が主にサロンで演奏され、アメリカに渡り、コンサートホールという場を得て、形をかえ発展したのと一致する。
巨匠ホロビッツが来日時に大変気に入って弾いたキャピタル東急に置かれていたスタインウェイピアノを後に高木氏はアメリカで手に入れている。
ひとつのことに惚れ込んだ技術者の執念や考え・エピソードは、たとえその世界に無知な者にとっても、その生き方から何かを感じ取ることができる。
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語学が上達しないこと、我が家の何十年も調律していないピアノの音の狂いも聴き取れないことを考えると、わたしの耳は良くないようである。
それでも大好きなクラシックピアノもピアノジャズも、これから聴く時には
少しだけ前と違った音を聴くことができるかもしれないと密かに楽しみにしているのだ。
by shinn-lily | 2013-07-31 21:48 | | Trackback

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