迷う気持ち
2016年 01月 15日
卒業以来、年賀状のやりとりだけのおつきあいが続いている地方在住の、友人がいる。
大学時代の美術部の先輩である。
空き時間に部室にいくと、よくその先輩がいた。
いつも穏やかで、落ち着いていて、笑みのない顔は思い出せない。
毎年私が年賀状を出すと、そのお返事が「寒中見舞い」としてやってくる。
手書きイラスト入りの葉書は、すぐにはしまわずにしばらくパソコンの横に立てかけておいて眺めるのが通例となっていた。
この返事をいただくのが楽しみで毎年年賀状を送っているようなものだ。
デザイン関係のお仕事をしていてご自分よりずいぶん年齢の若い方と結婚なさったとか、お母様の介護をしていらっしゃるというくらいしかプライベートは知らない。
今年は封書で返事をいただいた。
イラストと同じように丁寧な文字の宛名書きはかわらない。
年齢に似合わない可愛らしい封筒は猫の絵が・・・異次元に連れていかれるようだ。
しばらく封をきらずに余韻を楽しんだ。
はさみで封を切り、縦におられた二枚の便箋を開く・・・久し振りの動作で・・・
手紙っていいものだと開きながら心が躍る。
「新しき年の始めの初春の今日ふる雪のいや重け吉事
あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと
万葉集の、大伴家持のしめの和歌、新年をことほぐ和歌と聞きました。」
手紙はこう始まった。
近況が一文字一文字丁寧にしたためられていた。
世界の情勢、戦好きの人間の本性、あるいは読んでいる本の感想など。
丁寧に書かれた手紙というのは、受け取る側の気持ちを大きく開き、書かれている以上の想いが伝わってくる。
思わず、お返事のお返事を書きたくなってしまった。
いや、やはり、1年に1回のやりとりのほうが粋だろうか。
すぐにお返事を出そうか、1年先の年賀状まで待とうか、先輩の描いたイラストを見ながら迷っている。
まことに楽しい迷いである。